病める子

エドヴァルト・ムンク
1863~1944
病める子
1894年
ドライポイント、ルーレット 388×292mm
説明
ノルウェーのレーテンで厳格な軍医の父と母のもとに生まれたムンク。5歳のときに母を結核で亡くし、その9年後には姉のソフィエが同じ病で死へと旅立ちました。愛する家族が死を迎えた姿は年若いムンクの心に強烈な印象を与え、のちになって絵画や版画で幾度となく同じ死の場面を描きます。
ムンクは1885年にこの作品とほぼ同じ構図(左右反転)の絵画を制作して、1年をかけて筆を加え官展に出品しましたが、酷評を浴びることになりました。1894年、31歳のときに銅版画とリトグラフ、1896年には初めて木版画を制作したといいます。この銅版画作品は技法を習得して間もない頃のものですが、ドライポイントの鋭敏な線の集積が、今まさに命の火が消えようとする緊迫した悲しみの光景を印象深く表現しています。血の気のない白い顔をした少女の脇に、頭を垂れて嘆き悲しむ女性の姿が見えます。この年から3年連続でパリのアンデパンダン展に出品したムンクは、独自の画風が世に認められ始め、画家としての確実な歩みを続けることになります。