叙情的な(『響』より)

ヴァシリィ・カンディンスキー
1866~1944
叙情的な(『響』より)
1911年
木版(多色) 145 x 217 mm
説明
勢いよく駆け抜ける騎手と馬の横向きの姿です。単純な木版画の線と色彩で、馬と人の形をあらわしています。カンディンスキーが38篇の散文詩に56点の挿絵を添えて出版した、詩画集『響』のなかの1点です。1913年に、ミュンヘンのR.ピーパー社から刊行されました。
カンディンスキーは、20世紀前半の激動するヨーロッパで多彩な活動を繰り広げた、抽象美術の先駆者です。ロシアの裕福な紅茶商人の家に生まれ、法学と経済学を学びますがフランス美術の展覧会を見て大きな衝撃を受け、美術を学ぶためにミュンヘンへと移住します。その後、ファーランクス、ミュンヘン芸術家協会、青騎士(デア・ブラウエ・ライター)など、美術グループを次々にひきいて活動を繰り広げました。1911年に『芸術における精神的なもの』をミュンヘンのピーパー社から出版、抽象絵画の美的論理を音楽と関係づけた論文を発表しました。これと同じ出版社から出された版画集『響』は、カンディンスキーの理論を自ら実践した作品です。同時に、カンディンスキーが具象から抽象へと移行する様子がつぶさにうかがえる重要な作品ともいえます。