コレクション 町田市立国際版画美術館

夜の女王(R.J.ソーントン編『フローラの神殿』より)

夜の女王(R.J.ソーントン編『フローラの神殿』より)

(原画)
花:フィリップ・ライナグル
1749~1833
背景:エイブラハム・ペザー
1756~1812

(版刻)
ロバート・ダンカートン
1744頃?~1815頃

夜の女王(R.J.ソーントン編『フローラの神殿』より)

1800年
銅版(メゾチント[多色]、一部手彩色) 486 x 364 mm

説明

「女王」と呼ぶにふさわしく、堂々と咲き誇る大輪の花、背景には古びた塔のような建物。時計の針は午前零時をちょっとまわったところです。屋根の右端に不思議な動物が顔をのぞかせ、月の光は水面に反射してブルーグレーの神秘的な色調を放っています。花の横に描かれている棘のある<茎>状のものからわかるように、この植物はサボテンの一種です。けれども背景から醸しだされる雰囲気はまるでホラー映画のよう。それがこの作品の謎めいた魅力をいっそう高めています。

この作品は『フローラの神殿』と題された植物図譜の中の1点です。編者のロバート・ソーントンは、高名な植物分類学者であるリンネに捧げるために財産を投げ打ってこの書物を作りました。全部で28葉の花の図像がおさめられており、どれも銅版画の多色刷りというとても手のかかる技法によってあでやかな色彩で表現されました。すべての図像に本作品と同様、工夫が凝らされた背景が描かれています。植物学上の情報を正確に伝えるにはここまで凝った背景を描く必要はなく、事実、植物図鑑では背景に何も描かれていないのが普通です。この作品集が世に出たのが1800年代初頭。もう少したつと写真術が広まり、手をかけた版画による博物図譜の時代は終わりを告げることになります。こうして本作品は、手作りの版画によって生み出された絵画的な美しさをたたえ、まれに見る植物図譜として歴史に残ることになりました。

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